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石ノ森章太郎の漫画をはじめて読むなら、まずは『サイボーグ009』の1巻を開いてみましょう。ひとまずの目標は7巻です。物語がいったん完結するのがそこなので、全27冊を読み通す必要はありません。どの作品にするか決めかねているなら、第1話ばかりを集めた文庫『変身ヒーロー誕生』で味見する手もあります。
迷うのも無理はありません。個人全集の『石ノ森章太郎萬画大全集』は全500巻あり、一人の著者が出版した最多のコミックとしてギネス世界記録に認定されました。SFも時代劇も経済の解説漫画も描いた人なので、同じ作者とは思えない本が棚に並びます。ここでは全部を追わず、入口を四つに絞ります。
はじめての人におすすめの読む順番
今の気分に近い入口を一つ選んでください。全部を順に追う必要はありません。
| 入口 | 読むもの | 分量の目安 | こんな人に |
|---|---|---|---|
| SFの長編 | サイボーグ009の1〜7巻 | 7冊(全27冊) | 最初の一作を決めたい人 |
| 変身ヒーロー | 仮面ライダー→人造人間キカイダー | 3冊→5冊 | テレビの特撮が好きな人 |
| 大人の物語 | 佐武と市捕物控、HOTEL | 18冊、30冊 | 時代劇や人間模様を読みたい人 |
| 短い実験作 | 章太郎のファンタジーワールド ジュン | 2冊 | 絵で読む漫画に惹かれる人 |
迷ったら『サイボーグ009』をおすすめします。『仮面ライダー』と並ぶ代表作で、石ノ森作品に多い主題がはっきり出ています。自分に力を与えた者を裏切り、孤独に戦い続ける主人公です。これが気に入れば、仮面ライダーやキカイダーにもすんなり入れるはずです。
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「石森」と「石ノ森」、描いた人の見分け方
古い本を探すときは、名前の表記に気をつけてください。『サイボーグ009』も『仮面ライダー』も、発表当時の名義は石森章太郎です。石森プロの公式年譜によると、デビュー30周年を機に、1986年7月1日に「石ノ森」へ改めました(1985年とする資料もあります)。故郷の石森町から取った名前で、「いしのもり」と読ませるつもりだったのに「いしもり」としか読まれなかったことが、改名の理由とされます。古本を探すなら、両方の表記で検索しましょう。
もう一つ、表紙の名前と絵を描いた人が同じとは限りません。『サイボーグ009』は雑誌に載った作品のほとんどを本人が描いていますが、仮面ライダーのシリーズなどでは作画をほかの人に任せたことが多いとされます。岡崎つぐおさんが描いた『サイボーグ009 BGOOPARTS DELETE』のように、別の漫画家による作品もあります。本人の絵で読みたいなら、作画の名前を確かめてください。この記事で「全◯冊」と書いた作品は、石ノ森章太郎デジタル大全の電子版です。
『サイボーグ009』は7巻までを一区切りに
『サイボーグ009』は、死の商人「黒い幽霊団」に改造された9人のサイボーグが、組織を裏切って戦う物語です。世界旅行の直後に描いたので、9人の出身国は世界各地に広がりました。9という人数は、野球の「ナイン」から考えたものです。作者自身がこの作品を「まんが家としての(プロ意識を持って描いた)第一作」と表しています。
長く続いた理由は少し変わっています。『週刊少年キング』の連載は編集長の交代時に打ち切られ、最後の編は消化不良のまま終わりました。当時の編集者によれば、そこで『週刊少年マガジン』が真の結末を描く場として執筆を頼みました。こうして生まれたのが「地下帝国ヨミ編」で、物語はここでいったん完結しました。ところが、続きを望む読者の声が殺到し、雑誌を変えて新作が描かれ続けることになります。
| 電子版の巻 | 入っている編 | 初出 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 1〜5巻 | 誕生編、暗殺者編、ベトナム編、ミュートス・サイボーグ編など | 週刊少年キングなど(1964〜1966年) | まずここから |
| 6〜7巻 | 地下帝国ヨミ編 | 少年マガジン(1966〜1967年) | 最初の目標 |
| 8〜10巻 | 怪物島編、中東編、移民編、ローレライの歌編、海の底編 | 冒険王(1967〜1969年) | 続きを読みたくなったら |
| 11〜12巻 | 海の底編の完結、天使編、神々との闘い編 | 冒険王、COMなど(1969〜1972年) | 天使編と神々との闘い編は未完 |
| 13〜16巻 | 風の都編、エッダ編、海底ピラミッド編など | 週刊少女コミック、月刊マンガ少年など(1975〜1979年) | 神話や遺跡の話が好きな人に |
| 17〜26巻 | 新・黒い幽霊団との戦いと、短編や中編 | 週刊少年サンデーなど(1979年から) | 好きな話を拾い読みできる |
| 27巻 | 時空間漂流民編 | SFアニメディア(1985〜1986年) | 移民編のあとに |
8巻より先は、順番どおりでなくてもかまいません。短い話を読みたいなら、8編が入った20巻が手頃です。「移民編」が気に入ったら、その後日譚にあたる27巻まで飛べます。27巻の「時空間漂流民編」は、作者が連載した最後の編でもあります。
ひとつ知っておいてほしいのは、この物語に作者自身の手による結末はないことです。「天使編」と「神々との闘い編」は未完に終わりました。作者は完結編の構想を練り続けましたが、完成させられないまま亡くなります。残された構想ノートと原稿をもとに、長男の小野寺丈さんが仕上げたのが小説『2012 009 conclusion GOD'S WAR』(全3巻)です。こちらは漫画ではありません。設定も、戦士たちを21世紀の人間に変えた新しい解釈になっています。
2026年7月に配信が始まったアニメ『サイボーグ009 ネメシス』(全3話)から興味を持った人も、漫画は1巻からで大丈夫です。
文庫の1巻は「誕生編」ではない
紙の本で読むなら、ここだけは注意してください。秋田書店の文庫版と豪華版は、1巻を買っても物語の始まりから読めません。
| 版 | 巻数 | 最初の長編の位置 | 地下帝国ヨミ編の位置 |
|---|---|---|---|
| 石ノ森章太郎デジタル大全(電子) | 全27冊 | 1〜5巻 | 6〜7巻 |
| 秋田文庫 | 全23巻 | 5〜8巻 | 9〜10巻 |
| 豪華版(秋田書店) | 全23巻 | 5〜8巻 | 9〜10巻 |
文庫版と豪華版の1巻は「神話・伝説編」です。文庫の「誕生編」は5〜8巻の4冊で、物語の始まりからミュートス・サイボーグ編までがここに入ります。中古で文庫を買うなら、5巻の「誕生編 Part-1」から集めてください。1966年から出た秋田書店のサンデーコミックス(全15巻)には「神々との闘い編」が入っていません。
『仮面ライダー』の漫画はテレビの原作とは少し違う
『仮面ライダー』は全3冊と手頃ですが、テレビの話をなぞる本ではありません。1971年、番組の放映に先行して『週刊ぼくらマガジン』で連載が始まり、同誌の廃刊後は『週刊少年マガジン』に移りました。「原作版」と呼ばれることが多いものの、厳密にはテレビの企画をもとに描かれた作品で、テレビがこの漫画を映像化したわけではありません。石ノ森が原作者とされるのは、企画の段階で設定とキャラクターデザインを提供したことなどによります。序盤はテレビに近く、中盤から独自の話になります。
違いは設定にも出ています。作者は仮面ライダーを肉体が変化した姿と考えていましたが、テレビ用のデザインは服を着ているようにしか見えませんでした。そこで漫画では、改造された姿を隠すために仮面をかぶっているという設定を足しています。「仮面」の意味が変わるので、番組を知っている人ほど楽しめる違いです。
買う前に知っておきたいのは終わり方です。連載は全6話(1話が数週にわたります)で、ショッカーとの決着が描かれないまま終わります。テレビのように最後まで見届ける話を期待すると、物足りないかもしれません。
手軽に読むなら電子版の全3冊です。本にこだわりたい人には、復刊ドットコムの『仮面ライダー《オリジナル構成版》』(上下巻、A5判)があります。単行本化のときに加筆されたページをすべて収め、上下逆に収録されていたページを初出の状態に戻した版です。定価は各5,280円なので、1冊目に選ぶ本ではないと思います。
石ノ森本人が描いたライダーをもっと読みたいなら、1987年から『週刊少年サンデー』に連載された『仮面ライダーBlack』(全5冊)へ進めます。これもテレビの『仮面ライダーBLACK』とは異なる点が多い作品です。ライダーの原型とされる読み切り『スカルマン』には、島本和彦さんが描いた続編があり、愛蔵版(全3巻)で読めます。
次は『人造人間キカイダー』へ
『人造人間キカイダー』(全5冊)は、未完成の「良心回路」を持つジローの物語です。イタリアの童話『ピノッキオの冒険』を下敷きに、不完全な良心を抱えたロボットが人間に近づこうとします。正義の味方が悪を倒す話を読むつもりで開くと、たぶん驚きます。石ノ森作品の苦さを味わうなら、仮面ライダーの次はこれです。
ほかのヒーローは、どれから読むか悩むところです。そこで便利なのが、2026年に河出文庫から出た「石ノ森マンガ第1話コレクション」の2冊です。『変身ヒーロー誕生』は『仮面ライダー』『変身忍者 嵐』『人造人間キカイダー』『ロボット刑事』『イナズマン』など10作品の出だしを、『集団ヒーロー誕生』は『サイボーグ009』『秘密戦隊ゴレンジャー』『幻魔大戦』など13作品の出だしを収めています。第1話を読み比べて、続きが気になった作品だけ買えば、無駄がありません。
大人の物語を読むなら
『佐武と市捕物控』は、文政の江戸を舞台に、下っ引きの佐武と盲目の按摩の市が事件を解く連作です。1966年に『週刊少年サンデー』で始まり、1968年に『ビッグコミック』へ移りました。掲載誌を移したあと、絵はしだいにリアルになり、話も人間模様を描く大人のドラマへ深まっていきます。
読み始める巻は、版によって違います。電子版の全18冊は、1〜2巻が少年サンデー版で、ビッグコミック版は3巻からです(終わりの16〜18巻には別の雑誌の作品も入ります)。2026年に刊行が始まった小学館の『佐武と市捕物控 完全版』(全4巻)は逆で、ビッグコミック版を連載順に収め、少年サンデー版は最終巻に入ります。楽天ブックスの表示では第2集まで発売日を迎えていて、第3集は11月30日、第4集は12月28日頃の発売です。大人向けの絵から読みたい人は、電子版なら3巻を開いてください。作者自身が、読者層が変わると同じ主人公がどう変わるかを比べると面白いと語っているので、あとから1巻へ戻るのもおすすめです。
時代劇以外なら、巨大ホテル「プラトン」を舞台にした『HOTEL』(全30冊)があります。経済の話が好きなら『マンガ日本経済入門』です。本は全4巻です。BOOK☆WALKERの電子版に並ぶ3冊は銀行、会計事務所、経済企画庁が舞台で、本の並びでいえば2〜4巻にあたるようです。商社マンを描く本の1巻は見当たりません。描かれるのは1980年代の日本経済なので、今の制度の解説書というより、当時を知る物語として読むのがよいと思います。
短くて変わった作品も読みたいなら
『章太郎のファンタジーワールド ジュン』は、台詞がほとんどなく、絵とコマの流れだけで読ませる作品です。手塚治虫が創刊した雑誌『COM』に1967年から載り、小学館漫画賞を受けました。その手塚が「あんなのまんがじゃない」と怒ったという編集者の証言も残っています。同じ証言によれば、石ノ森が連載の打ち切りを切り出すと手塚本人が訪ねてきて謝り、連載は完結まで続いたといいます。電子版は全2冊で、まず読むのは1冊目です。2冊目は別の雑誌に載った話や晩年の作品を集めています。言葉で説明しない作品なので、合わない人もいるはずです。試し読みで確かめてください。
SFの長編なら、リュウ三部作があります。未来を描く『リュウの道』(全8冊)、過去を描く『原始少年リュウ』(全2冊)、現代を描く『番長惑星』(全5冊)の順です。平井和正さんと組んだ『幻魔大戦』(全2冊)は、連載が打ち切りで終わったとされる作品です。長い物語を最後まで読み切りたい人は、そのつもりで開いてください。
暗い話が続いて少し疲れたら、『さるとびエッちゃん』(全5冊)で息をつきましょう。不思議な力を持つ転校生が学校を騒がせる、明るいコメディです。
読み終えたら、同じ時代の作家へ
石ノ森章太郎は、高校を卒業して上京した年にトキワ荘へ移りました。描く速さの話は藤子不二雄Aの『まんが道』にも出てきます。本人が当時を書いた本に『章説 トキワ荘の青春』があります。のちにチーフアシスタントを務めたのが永井豪で、生年月日がまったく同じ漫画家が松本零士です。読み比べると、同じ時代の漫画がどう枝分かれしたかが見えてきます。
どの入口でも、最初に読むのは一冊だけで大丈夫です。今夜なら『サイボーグ009』の1巻を開いてみてください。さらわれた少年が009と呼ばれるところから、この長い物語は動き出します。
参考(2026年11月5日確認)
- 石森プロ公式「石ノ森章太郎について」 — https://ishimoripro.com/about-shotaro/
- 石ノ森章太郎デジタル大全 公式サイト — https://ishinomori.jp/
- 「サイボーグ009 ネメシス」公式サイト — https://cyborg009.jp/
- 石森プロ公式「アニメ「サイボーグ009 ネメシス」配信開始」 — https://ishimoripro.com/2026/07/19/アニメ「サイボーグ009-ネメシス」配信開始/
- 河出書房新社「変身ヒーロー誕生」 — https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309422404/
- 河出書房新社「集団ヒーロー誕生」 — https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309422688/
- 復刊ドットコム「仮面ライダー《オリジナル構成版》上・下」 — https://www.fukkan.com/fk/CartSearchDetail?i_no=68339215
- BOOK☆WALKER「サイボーグ009(石ノ森章太郎デジタル大全)」 — https://bookwalker.jp/series/17719/
- BOOK☆WALKER「仮面ライダー(石ノ森章太郎デジタル大全)」 — https://bookwalker.jp/series/15556/
- BOOK☆WALKER「人造人間キカイダー(石ノ森章太郎デジタル大全)」 — https://bookwalker.jp/series/15555/
- BOOK☆WALKER「佐武と市捕物控(石ノ森章太郎デジタル大全)」 — https://bookwalker.jp/series/21388/
- BOOK☆WALKER「マンガ日本経済入門(石ノ森章太郎デジタル大全)」 — https://bookwalker.jp/series/44715/
- 石森プロ公式「連載開始60周年「佐武と市捕物控 完全版」刊行開始!!」 — https://ishimoripro.com/2026/08/25/連載開始60周年「佐武と市捕物控-完全版」刊行開/
- Wikipedia「石ノ森章太郎」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/石ノ森章太郎
- Wikipedia「サイボーグ009」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/サイボーグ009
- Wikipedia「2012 009 conclusion GOD'S WAR」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/2012 009 conclusion GOD'S WAR
- Wikipedia「仮面ライダー (漫画)」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/仮面ライダー (漫画)
- Wikipedia「仮面ライダーBLACK」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/仮面ライダーBLACK
- Wikipedia「人造人間キカイダー」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/人造人間キカイダー
- Wikipedia「佐武と市捕物控」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/佐武と市捕物控
- Wikipedia「ジュン (漫画)」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/ジュン (漫画)
- Wikipedia「リュウの道」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/リュウの道
- Wikipedia「幻魔大戦」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/幻魔大戦
- Wikipedia「マンガ日本経済入門」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/マンガ日本経済入門
- Wikipedia「スカルマン」 — https://ja.wikipedia.org/wiki/スカルマン