フラットでポップなベクター調で、マイクの前の声優と、ラジオ・レコード・ライブ・配信を示すアイコンの時系列。時代とともにアイドル的な要素が増える様子。読める文字や数字、ロゴは入れない

「声優はいつからアイドルになったのか」と聞かれると、多くの人がまず特定の年か特定の人物を思い浮かべようとする。だが実際にたどってみると、声優が声の仕事の外側で人前に立ち、名前と顔を知られ、歌い、ファンと直接つながる存在になっていった過程は、一つの転換点というより、ラジオとレコードの時代、歌う声優とイベントの時代、ライブと配信の時代という、いくつかの層が重なりながら進んできた変化に近い。本稿では、それぞれの時代に何があったかを確認できる範囲の事実からたどり、最後になぜそうした変化が起きたのかを、需要と産業構造の重なりとして考えてみたい。

「声優=アイドル」という見方は、いつ生まれたのか

声優の歴史を語るとき「第一次」「第二次」といった声優ブームの区切りが使われることがある。ただしこれは後から研究者やメディアが整理した目安であり、当事者たちが当時「今日からアイドル声優ブームだ」と意識して活動していたわけではない。声優が演技以外の場に立つようになった経緯を追うと、ラジオでの語り、レコードの発売、雑誌での露出、コンサートといった個々の出来事が、時間をかけて積み重なっている様子が見えてくる。以下では、その積み重なりを時代ごとに区切りながら確認していく。

声の仕事の外側で、名前と顔が知られていく

1960年代、民放テレビの草創期には海外ドラマや洋画の日本語吹替が数多く制作され、吹替を担った演じ手たちの人気が高まった時期があったとされる。当時は「声優」よりも「吹き替えタレント」といった呼び方が使われることもあり、現在のアニメ声優とは仕事の中心が異なるが、演じ手個人がファンに認識され始めた最初期の動きとして位置づけられることが多い。

レコードとバンド、そして誌面

1970年代後半、テレビアニメの劇場版がヒットしたことをきっかけにアニメファン層が広がると、声優個人への関心も強まっていった。1970年代末には、声優としては早い時期にソロ名義のレコードを発売した例が出てきたとされ、アニメ作品で主演した声優たちがバンドを結成してライブ活動を行うといった動きも見られるようになった。声の仕事とは別の形で、音楽を通じてファンの前に立つ声優が、この時期から現れ始めている。

アニメ専門誌が声優を誌面で積極的に取り上げ、人気投票やインタビューを企画として定着させていったことも、声優個人の知名度を押し上げる方向に働いたと考えられる。1980年代初頭には、アニメ関連の表彰式に合わせて声優によるステージが披露された記録も残っており、声優が大きな会場で観客の前に立つという経験自体は、この時期にすでに始まっていた。ラジオ番組で声優本人がパーソナリティを務める企画も広がり、演技では聞けない素の語り口に触れられる場として支持を集めていった。ファンが声優個人を応援するという構図は、ラジオとレコードというこの時代の手段を土台に、ゆっくりと形づくられていったと見てよいだろう。

キャラクターソングとコンサートが広がる

1990年代半ばから後半にかけては、しばしば声優ブームの節目として語られる時期にあたる。新人声優のデビューが相次ぎ、テレビゲームやパソコンゲームでの音声出演が仕事の幅を広げる一方で、容姿や歌唱力、複数分野での活動量が求められる場面も増えていったとされる。この時期には声優を主役に据えた専門誌や番組が新たに生まれ、声優自身が発信する場が制度として整っていった。音楽活動でも、レコード会社と専属契約を結んで本格的に歌手として動く声優が現れ、日本武道館で単独コンサートを開いた例も出てきた。会場の規模そのものが、声優個人の集客力を測る目安として意識されるようになったのは、この頃からだろう。

並行して広がったのが、演じているキャラクターの名義で発売される楽曲、いわゆるキャラクターソングという手法だ。作中の一場面で歌われる挿入歌から、キャラクター名義のシングルやアルバム、複数キャラクターによるユニット企画へと形式は広がっていった。声優個人の人気と、演じるキャラクターの人気が、音楽という媒体を通じて結びつく仕組みが整っていったのがこの時代であり、ファンから見れば、声優を応援することと作品やキャラクターを応援することが、以前より地続きになっていったと言える。

会場の規模と発信の手段が変わる

2000年代後半以降は、深夜アニメの本数が増え、声優として活動する人の総数自体が大きく伸びた時期にあたる。声優専門誌に名前が掲載される人数が、2000年代初頭から2020年代にかけて数倍規模に膨らんだという集計もあり、供給側の裾野が広がったこと自体が、音楽やイベントに積極的な声優の絶対数を押し上げた面はありそうだ。

2005年に始まったアニメソング系の大型音楽イベントは、声優と歌手が同じステージに立つ場を毎年恒例のものにし、大規模な会場で歌うという経験を、一部の声優にとって日常的な選択肢に変えていった。2010年代に入ると、アニメ発の声優ユニットが東京ドーム規模の会場で公演を行ったり、年末の音楽特番に出演したりする例も出ている。ソロで活動する声優アーティストが、数万人規模のアリーナ公演を複数回にわたって行った例も報じられており、会場の大きさという点では、1980年代の武道館出演がまだ特別な出来事だった時代とは、状況がかなり変わってきたと見てよいだろう。

SNSと配信という届け方

同じ時期に広がったのが、SNSでの日常的な発信と、配信という届け方だ。声優本人がSNS上で近況を発信し、生配信のイベントに出演する機会も一般的になった。これまでは雑誌やラジオという限られた窓口を通じてしか触れられなかった声優個人の姿が、より直接的で頻度の高い形でファンに届くようになっている。会場でのライブと、配信での視聴を組み合わせたイベントも広がり、遠方のファンが現地に足を運ばなくても参加できる仕組みが整ってきたことも、活動の裾野を広げた一因として挙げられる。

需要と産業構造が重なる場所

ここまでの流れを振り返ると、声優がアイドル的な存在として語られるようになった背景を、単一の理由に絞り込むのは難しい。音楽・イベント・映像配信という複数の分野へ活動が広がったこと自体が、事務所やレーベルにとって収益源を増やす動きと重なっていた点は見逃せない。芸能事務所の収益は、一般に次のような複数の柱を組み合わせる形に広がってきたとされる。

声優がキャラクターの声を届けるだけでなく、自らの名前で楽曲やイベントを成立させる存在として扱われるようになった流れは、こうした収益構造の広がりと方向としては重なっている。キャラクターとの結びつきも欠かせない要素だ。キャラクターソングやユニット企画は、演じ手の人気を高めると同時に作品そのものの魅力を広げる働きも持っており、声優個人を応援することと作品を応援することが、以前より分かちがたく結びついていった。ファンの側から見れば、声を演じる人という認識に加えて、歌い、話し、配信で日常を見せる一人の表現者として声優を捉える見方が、時間をかけて広がっていったとも言える。

こうした変化を、事務所側の戦略だけで説明するのも、ファンの熱量だけで説明するのも、どちらも一面的だろう。ラジオ・雑誌・イベント・配信とメディアの形式が増えるたびに、声優が人前に立つ機会そのものが増えていったという単純な事実も、この流れを後押ししてきた。声優がいつからアイドルになったのかという問いに、一つの年や一人の名前で答えを出すよりも、いくつもの時代が重なり合って今の形になっていると捉えるほうが、この数十年の動きには近いはずだ。